東京高等裁判所 昭和57年(ネ)812号 判決 1983年6月28日
昭和五七年(ネ)第七九七号控訴人
昭和五七年(ネ)第八一二号被控訴人
第一審原告
甲野太郎
右訴訟代理人
杉本良三
昭和五七年(ネ)第七九七号被控訴人
昭和五七年(ネ)第八一二号控訴人
第一審被告
株式会社東海銀行
右代表者
酒井謙太郎
右訴訟代理人
松嶋泰
土屋良一
寺澤正孝
主文
第一審原告の本件控訴及び第一審被告の本件控訴をいずれも棄却する。
昭和五七年(ネ)第七九七号事件の控訴費用は第一審原告、昭和五七年(ネ)第八一二号事件の控訴費用は第一審被告の各負担とする。
事実《省略》
理由
一当裁判所は第一審原告の本訴請求を、原判決の認容した限度で正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。
1 原判決七枚目表六、七行目「午後三時にだけ」を「土曜日以外の平日には午後三時、土曜日には午前一二時に」と改め、一〇行目「九月一〇日」の次に「(水曜日)」を加える。
2 同九枚目裏一〇行目「金八七四万九八七九円」の次に「及びこれに対する第一審原告が本件報労金の請求をした日であることについて当事者間に争いのない昭和五五年一〇月三日の翌日である同年一〇月四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払」を加える。
3 <証拠>を総合すれば、いわゆる日銀小切手は、日本銀行と取引関係にある金融機関等が相互間の決済に利用する目的で日本銀行を支払人として振出す小切手であり、これを資金化するためには必ず受入れ金融機関がその小切手の裏面に予め届けてある領収印を押しこれを日本銀行の営業局窓口への直接持ち込む手順をふむこととされており、手形交換所の交換に付さない取扱いとなつていること、本件小切手は、第一審被告が自行に円口座を有する外国銀行の依頼により三井信託銀行本店、三井銀行東京支店及び東京銀行本店の各外国銀行の口座に資金を移しかえるため日本銀行を支払人として振出したいわゆる日銀小切手であること、いわゆる日銀小切手は、小切手ではあるが、前記のとおり特殊な使用に供され、資金化するためには日本銀行と取引のある金融機関等が直接日本銀行へ持ち込む手順をふむ必要があり、輾転譲渡されることは振出当初から予定されておらず、遺失その他何らかの事情により第三者の手に渡ることがあつても、その記載自体から善意取得される可能性は絶無とはいえないが極めて低いこと、なお、いわゆる日銀小切手が例外的に仮差押、仮処分の保証供託金の納付に利用されることがあるが、この場合、その小切手の使用方法は右保証供託納付用に限定され、他の用途に流用されたり輾転譲渡される可能性は極めて低いこと、供託金の還付取戻、刑事事件における保釈保証金の還付、大手建設業者等に対し国庫から支払をする場合に利用される小切手は通常政府小切手と呼ばれ、いわゆる日銀小切手とは異なり、いわゆる日銀小切手のような特殊な制約を受ける取扱の対象外であることが認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、前顕その余の証拠に照してにわかに採用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
ところで、小切手を遺失した場合、直ちに右小切手金額をもつて遺失物法四条一項にいう「物件の価格」とすべきではなく、右小切手が現金化され又は第三者に善意取得されて遺失者が財産上の損害を被る危険の程度を勘案し、当該小切手金額及び右危険の程度を考慮して「物件ノ価格」を定めるべきである。
本件において、第一審被告が本件小切手を遺失したことにより本件小切手が現金化される可能性は絶無であつたのであり、本件小切手が第三者に善意取得されて第一審被告が本件小切手金額相当の出捐を余儀なくされ財産上の損害を被る危険は絶無ではなかつたがその程度は極めて低かつたと認められるのであつて、当裁判所も本件小切手金額の二パーセントをもつて遺失物法四条一項に定める「物件の価格」とするのが相当であると認める。
二よつて、原判決は相当であつて、第一審原告の本件控訴及び第一審被告の本件控訴は理由がないからいずれもこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。
(川添萬夫 新海順次 相良甲子彦)